November 29, 2004

1945年のクリスマス -憲法草案秘話- 

ベアテ・シロタ・ゴードン著 平岡磨紀子(構成・文) 「1945年のクリスマス」
1945年のクリスマス
ベアテ・シロタさんからいただいた署名
ベアテ・シロタの署名
 今までに、マッカーサーの占領政策下で我国の憲法がどのような道筋を辿って成立したか、ということについて、日本人側(敗戦国の人間)の日記や証言などを幾らか読んだことはあるが、この本は全く反対サイドからの記述だ。GHQ民生局(アメリカ占領軍)に勤めていた若いアメリカ女性が日本国憲法の立案に奇しくもたずさわった激動の1週間を書いている。日本側の記録とつじつまが合っているから、ここに書かれていることは事実であると信じる。それにもましてGHQ民生局のメンバーが優秀な上に、志も大変高かった人たちだったということが強く印象にのこる。彼らは本気で理想的な日本国憲法を作ろうと努力している。それは戦争放棄条項だけではない。人権や女性問題にも熱い思いが込められて日本国憲法草案は作られたのだ。
 例えば、こんなくだりがある。

草案の第四条
この憲法の後日での改正と、将来できる法律、法令は、すべての人に平等と正義、権利を廃止したり、限界を設けることはできない。
公共の福祉と民主主義、自由、正義はいかなることがあろうとも、将来の法令によって侵されない。(以下省略)

 この条文は当時民主主義や権利意識の希薄な我国が憲法を改正して元の木阿弥にならないようにという思いでかかれているのだが、それに対してケーディス大佐がこのように発言して反対している。
「これは暗黙のうちに、この憲法の無謬性を前提としている。一つの世代が、つまりわれわれのことだが、他の世代に対して自分たちの手で問題を解決する権利を奪うことになる。原案のままだと、権利章典の改正は不可能になる。つまり、権利章典の変更は、革命を起すしか方法がなくなる。とても賛成できないね。」

 この言葉には感動した。我国の政治家で、護憲派であれ、改憲派であれ、法にたいしてこれだけ深い見識をもっている議員は何人いるだろう?
逐条、このような真摯な討議が深更に及んで繰広げられているのは、彼らの立派な憲法を作りたいという真心であり、日本人なら感謝しないわけにはいけない。最期はGHQの力による押付け憲法と言われてしまう運命にあるのだけれど、草案を作った人たちの努力は素晴らしいと思う。
 それとこの草案作成時に22歳だった著者は女性の人権や地位向上に対して並々ならぬ思いを込めて、草案つくりをしているのもすばらしい。その努力のかいがあったのだろう、日本国憲法103条の内、人権条項は31条もあって、全体の三分の一を占めている。そして彼らは、後日日本人が自らの手でこの憲法を改正も改悪もできる権利を日本人の手に残しておいてくれたのだ。

 トップシークレットであったため、その秘密を50年以上もの間、一度も口にしたことがなかった彼女が明かした真相は衝撃的です。歴史はいろいろな側面をもっています。この本のように戦勝国側から見た、それも組織の下のほうに位置していた一人の日本通の若い娘が体験した憲法草案作成の記録は貴重です。
 我国はこれから、憲法改正について国民的議論をはじめなければなりません。この機会に若い人にこの本を読んでいただきたいと思いました。

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