May 26, 2016

Inpromptu(即興詩)  -中野重治-

  この「即興詩」は翔年が 高校三年(1960年1月頃)の時に書いたノートからコピーしたものです。 生意気盛りの19歳、中野重治の詩がお気に入りでした。

 詩だけでなく、当時読んでいた小説や評論から、気に入った文章をところかまわず抜萃したノートが2冊あります。 ノートは黄ばんで痛んでいるし、青インクは黒っぽく変色していますが、55年以上たっているのにちゃんと読めます。当たり前? 


 ちょっと長いですが、この歳になって読んでもちょっといいなと思いました。いや、今の自分にぴったしかも…。(笑) 

impromptu



Impromptu    中野重治

  
高い書物を買いこんで
おれは又もや気がふさぐ
そうしておれは思い出す
おれの先祖のだれ一人
おれに書物はくれなんだと
なるほどお経は伝わったが
あれはお経で本じゃない
けれどおれはやるだろう
おれがじじいになっちまい
息子があるいは娘が大きくなった時
  「これはとっつあんが若い時 
  こんなわけで手に入れて
  胸ときめかして読んだもの
  受けた影響かぞえれば
  これこれこれといったとこ
  お前にや向かぬか知れないが
  まあ持ってって読んでみな」
初嵐抜萃ノート
息子の拒絶おそれつつ
いささか照れて言いながら
更にもおれは欲張って
その上こんなに考える
おれの息子も孫を生み
そいつが大きくなった時
じじいになった息子めが
ある日孫めをつかまえて
  「これはとっつあんが若い時
   じさまがわしをつかまえて
   こんな説教鳴らしつつ
   このとっつあんにくれたもの
   そしてやっぱりとっつあんが
   胸ときめかせて読んだもの
   受けた影響かぞえれば
   まずこれこれといったとこ
   お前にや向かぬか知れないが
   まあ持ってって読んでみな」 
孫めの拒絶おそれつつ
いささか照れて言いながら
例の本をば出すだろう

してみれや本はやすいもの
世間のおやじよおふくろよ
また息子よ娘らよ
高い本などつい買って
お前の気分がふさいだら
たとえ子持ちでなくっても
お前をとっつあん又はかあちゃんに仕立て上げ
息子や娘を配置して
そして気分を直すがいい
それがほんとの本好きの
本を大事にする仕方
してまた子孝行孫孝行
人の人たる気慰め
社会的衛生といったもの
-----なんかんとおれが手の中の
買った本をば眺めつつ
頬っぺあたりをさすりみる


  
そんじょそこらの若い衆が
しゃれたネクタイ咽喉にさげ
鞄に弁当おしこんで
午後の天気を気にしつつ
気をひったてて出かけ行く
それをばおれは賛美する
つらい苦しいこの世では
とかく元気がことのもと
げんきにさえなることならば
靴もみがけ歯もみがけ
胸のかくしのハンケチも
はなハンケチが別にあれゃ
青いのなんかもわるなかろ
ばあさまなんぞがごとごとと
いってることはみな違い
そうではないと知っている
詩人のおれが君たちの
月賦の折り目の弁護人
どこどこまでも引受ける
    


 この詩の20ページほど後ろに、◎印つきのパスカルのこんな章句が書いてありました。

 ◎ 人間のむなしさを十分に知ろうとするならば愛の原因と結果を考えてみさえすればよい。その原因は「何だか私にはわからないもの」であり、またその結果はおそるべきものである。   -パンセ−

 

蛇足
ノートの題名「初嵐」について: 初嵐とは立秋後はじめて吹く風を言う。当時、何か心身に強風を受けた感覚があったのかもしれません。




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