June 20, 2010

井上ひさし絶筆ノート

井上ひさし


 4月9日に逝去された作家の井上ひさしさんは173日間におよぶ闘病中の出来事をノートに克明に記録していた。その一部が妻のユリさんの手記の形で「文藝春秋七月号」に掲載されている。
 一番、心を打たれたのは最後のページの次の言葉だ。




『過去は泣きつづけている。−−−大抵の日本人がきちんと振り返ってくれないので。

過去ときちんと向き合うと、未来にかかる夢が見えてくる。
いつまでも過去を軽んじていると、やがて未来から軽んじられる。

過去は訴えづづけている。

東京裁判は、不都合なものはすべて被告人に押しつけて、お上と国民が一緒になって無罪地帯へ逃走するための儀式だった。

先行きがわからないときは過去をうんと勉強すれば未来は見えてくる。

瑕こそ多いが、血と涙から生まれた歴史の宝石。』



 この最後の言葉は昭和天皇と当時の指導者層が自ら責任をとろうとしなかったことと国民自らが戦争責任を明らかにしなかったことに対する激しい怒りがあると感じる。
 特に翔年は、15日にアップした「映画『カティンの森』を観た」で書いた「死者たちを正当に弔意しなければならない。過去との直面を避ける民族は敗北を宣告されている」というアンジェイ・フラチクの言葉が「過去は泣きつづけている。ー大抵の日本人がきちんと振り返ってくれないので。」と妙に符合して感じられてならない。


 故井上ひさし氏のご冥福をお祈りいたします。(合掌)


この記事へのコメント
きまぐれ花子様

井上ひさしのファンでしたか。講演(授業?)も聴いておられるんですね。

小生、「吉里吉里人」が一番好きです。それに氏は希に見る日本語使いの達人でしたね。色んなことを彼から学びました。

この言葉を残しただけでなく、実践したことが素晴らしいと思います。
「むずかしいことをやさしく、
やさしいことをふかく、
ふかいことをおもしろく」

またのお越しを待っています。

Posted by ユリウス at June 22, 2010 09:55
カティンの森に続く書きこみで恐縮です。

井上ひさし氏ファンの一人として、
ありがたき情報記事をありがとうございます。
再度お礼を申し上げます。

2008年10月25日(土曜)
「作家の生き方」と題し、井上ひさし氏の公開授業が青山学院大学でありました。井上氏は”菊池寛”を取り上げ、彼の生き方を紹介し、作家の健康保険や
社会保険を作ってくれた偉大な人ということを知りました。他にも「戦争は
金儲け」などとおっしゃってました。

井上語録はいろいろありましょうが、個人的にはどこの新聞だったか、
「背表紙読むのも読書のうち」のフレーズが大好きです。

以上、くだらぬ戯言、失礼しました。では、ごきげんよう。


Posted by きまぐれ花子 at June 22, 2010 05:24