April 08, 2009

モンシロチョウの性

 春になると花が咲き、その花に蝶が舞う。梅や桜の花もいいが、春風にのって花のまわりを飛び回る蝶は春の舞台に舞うダンサーのようだ。

 生命誌研究館の庭の桜
生命誌研究館の桜


様々なこと思い出す櫻かな    芭蕉

蝶に会ひ人に会ひ又蝶に会ふ   深見けん二


 昨日、読売新聞夕刊コラムで、生物学者の池田清彦先生の「メスの流儀」を見つけた。おかげで、忘れかけていたモンシロチョウの興味深い習性を想い出した。

 それは
「モンシロチョウのメスは基本的に生涯に一度しか交尾しない。(中略)メスの生殖器には受精嚢という袋がついていて、オスからもらった精子を、生きたままかなり長期間ここに貯えておくことができるのである。一度交尾すれば、体内のすべての卵を受精させるのに十分な数の精子が得られるので、それ以上交尾する必要がないのだ」
ということ。
 合理的と見るか、ドライすぎると感じるかは、それこそ、人さまざまだろう。


 蝶を観察していると、一匹のメス蝶に数匹のオスが追いすがっている光景を見かけることがある。オスが余っているのだ。これはオスが交尾の回数を知るカウンターをもたないからだろうと翔年は思っている。
 はたして
「交尾が済んだメスは、オスが近づいてくると尻を高く持ち上げて、交尾拒否の姿勢をとる。モンシロチョウの交尾の姿勢は遺伝的に決まっているので、こうなるとオスはあきらめるほかはない」
らしい。やっぱりそうか。あぶれたオスは相当数いるんだと納得。 

交尾拒否の姿勢 Photo by Wiqipedia
モンシロチョウの交尾拒否姿勢

 納得はしたけれど、同情心もちょっと湧く。同性として「オス君、交尾の体位を工夫してごらん」とアドヴァイスしたい。

 ところが、この拒否姿勢をよく見ると翅をひろげている。これは「死の擬態」かも知れない。何のために? 死んだメスでは仕方がないとオスを諦めさせるために。もしそうなら、翔年のアドヴァイスは何の役にもたたない。

閉じし翅しづかにひらき蝶死にき   篠原 梵


 池田先生のお話には凄いオチがついていて、またまた、びっくりした。精子をなぜ貯めるのかという主目的は
「受精嚢に貯えてある精子を吸収して栄養にするためという説が有力だ」
という。何のことはない。メスは子供を作るためにオスを利用するだけではなくて、ついでに栄養補給もたくらんでいるというのだ。サプリメントに利用するとは……。

 ここまで読んで、「メスの流儀」なるタイトルをつけた先生の深謀遠慮に気がついた。先生は蝶にことよせて、男は「胡蝶の夢」のようなロマンチスト、女は子供のため(自分のため)せっせと貯金するリアリストといいたかったに違いない。

※胡蝶の夢=荘子からきている故事で、夢に胡蝶となり、百年花に遊んだことをいう。


蝶のレストラン Photo by 生命誌研究館
蝶のレストラン

 ところで、「蝶のレストラン」が高槻市内にあるのをご存知だろうか? 生命誌研究館の屋上にある「食草園」には「パピヨンのレストラン」というしゃれた名前がつけられているので、モンシロチョウのみならず、美食家の蝶がたくさん集まってくると聞いている。


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