August 13, 2008

盤外のトラブル(裏情報)

 US碁コングレスは時間がたっぷりあるので、心ゆくまで碁が楽しめるのですが、色々な文化を持った人種が集まっているので、たまにトラブルにも逢います。

 これは翔年の遭遇した盤外トラブルです。できるだけ事実をありのままに伝えて、みなさんのご判断を仰ぎたいと思います。(これは裏のコングレスです)

 大会最終日、相手は中国人(中国系アメリカ人?)女性のMs.Wan Chen でした。一手一手に時間をかけるタイプ。ランチタイムの12時には、翔年の残り時間は1時間以上あるのに、彼女はもう15分ぐらいしかありませんでした。
 黒番の彼女が地でリードしているのですが、碁形の厚い翔年が追い込みの効きそうな形勢でした。

 12時半になった時に、翔年はランチタイムによる中断を提案しました。彼女も同意したので、封じ手をするためにTD(トーナメントディレクター)を呼びました。(封じ手とは食事等のために、試合を中断するとき、考慮時間が不公平にならないよう、TD立会いのもとに、どちらかが着手を決めてから、両者の時計を止めて、相手に分からないように紙に「着手点」を書いておくことです)
 
 「今日は最終日だ。昼からはこの大部屋はさよならパーティのために片付けなければならない。試合は続行せよ」これにはびっくり。

 二人とも食事ができなくなると文句をいいましたが、TDは続行を主張します。こんな無茶な説明をするTDは初めてでした。翔年の脳裏にチラッと、その日の朝、会場片付けの手順の説明があったことを思い出しましたが、まさか食事が抜きになるとは思いもしませんでした。彼女は長々と文句を止めません。

 翔年はランチ抜きで打つ決心をしました。TDの裁定は絶対です。覆ることはありません。それにこのやり取りは翔年の持ち時間を費やしてしていますから、彼女の方は交渉が長引いても何の損もありませんが、翔年はうれしくありません。(できのいいTDなら両者の時計を止めるところです)

 「我々はつづけるしかない」と言って着手をし、時計のボタンを押しました。こうすれば彼女の持ち時間が減るので、彼女の文句はやみました。試合続行です。ところが、翔年の考慮時間になると、「お前の時間が1時間もある(残っている)から、我々は食事もできなくなってしまった」と逆に翔年に文句(泣き言)を言うのです。これはフェアではありません。筋違いもいいところ。
 こっちに何の落ち度もないのは明らかなので、相手にせず、冷静に着手を続けました。彼女の番になると静かになるのですが、こっちが考えているとまた文句をまくし立てます。

「文句があるなら俺にではなくTDを呼んで言え!」厳しくいいはなつと、彼女はまたTDを呼びましたが、らちがあくはずはありません。続行。
 また前と同じように、翔年の手番になると彼女の文句ともボヤキとも分からん英語の騒音が頭の上から降ってきます。

”Be quiet. I'm thinking." やっと黙らすことができました。
 そのころ彼女の持ち時間はいよいよ切迫して、残り2分ぐらいしかありません。彼女はTDに文句を言うため椅子から立ち上がったままで、必死に打っていたのです。

 こんな状況下でも翔年は冷静でした。その時は、女性に弱い中年のおっさんではありませんでしたし、また、外人に極端に弱い日本人でもありませんでした。ましてや、外国の理不尽な要求に弱腰でペコペコする日本政府のようでもありませんでした。



 碁形が厚いので、翔年は先手のヨセを打って、余得を確保しながら、最大の辺のすべりに手を廻したとき、勝てると思いました。彼女が落胆するのも分かりました。

 通常は先手になる隅のハネツギを打ってきた時、翔年は手を抜いて中央のかねて狙いの手を打ちました。彼女は隅を切り取り、翔年は中央の一子抜きと一種の振り代わりになりました。その後中央のコウを彼女が譲歩したとき、チャンスを掴みました。2線からの出切りを敢行し、相手が中央に一手手を戻す間に、隅に手が生じました。 全ての変化が読めていたわけではありませんが、13手の攻防で隅の特殊な関係から、白の一手勝ちとなりました。
 彼女はそれに気がついたとき、持っていた黒石を机の上に投げました。大きな音とともに石が跳ねました。(日本ではこれは子どもがやっても厳しくたしなめられます)


 こちらでは投了の意思表示はハッキリ "I'll resign"といいます。そして双方から握手の手を出します。(日本では静かにアアゲハマを盤上に置く人が多い)彼女は投了の意思表示をしなかった。それで翔年は彼女が石を崩し始めるまで、辛抱強くじっと待ちました。無用の言いがかり、トラブルを避けるためです。握手もなく味気ない終わり方でした。

 
 勝ったからいいようなものの、もし反対に、彼女のせいで感情が乱れ、考えがまとまらなくなって、勝てる碁を負けたとしたらどうだろうか?
 きっと、翔年はしばらく碁が嫌いになったかも知れません。


 さよならパーティの時、近くのテーブルにいた彼女に話しかけたところ、けろっとした顔で応じました。




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この記事へのコメント
STakeharaさま

来年も必ず参加するつもりです。お世話をおかけしますがよろしく。

旅にトラブルはつきものですが、ご家族も会われていたとは……。

昔から「かわいい子には旅をさせよ」と言われています。
これは一面の真理ですね。
トラブルは嫌ですし、困りますが、避けられない旅のトラブルは乗り越えなければならないわけで、そのために知恵をしぼることが、生きる力となると昔の人は考えたのでしょう。

Posted by ユリウス at August 19, 2008 21:37
ユリウス様、

無事に日本にお着きになられたようで、良かったですね。来年はボランティアで、Go Congressをサポートします。もし、ここは、こうしてほしいとか、こんな企画があったらとか、なにかアイデアがありましたら、どんどん教えてください。実行委員に直接提案が出来ますから。

P.S. 実は、うちの家族もホテルに帰りのバスが来なくて、急きょタクシーとか(朝4時半)アトランタからの飛行機がキャンセルで、違う飛行機の変えないとかいけないとか、いろいろありました。はらはらさせられました。
Posted by STakehara at August 19, 2008 13:13
妙齢の女性と二人並んで座っている様子を想像するだけで、楽しそうな会話が聞こえてくるようです。
生きた蛸を食べさせる寿司屋の話ですが、多分、それは貴殿の返答次第でその後の対応を考えようとした、様子見の一手だったような気がします。
「知っている」と答えていたら、「ゲテモノ食いとは話したくない」と口を利いてもらえなかったでしょう。
知らなかったのが幸いしたようですね。^^
本当に最後の最後までついていましたね。
ちなみにM6pはK2pと並んで座り、フライト中は食事以外は爆睡していたそうです。(笑)
Posted by サクラメント at August 16, 2008 07:53
サクラメント さま

ツキと言えば、飛行機の10時間の旅の間、妙齢の女性が窓際、翔年がその横というシチュエーションでした。
恋人か夫が岩国米軍基地にいるので、日本に2年間、住むことになるそうで、期待に胸ふくらませていました。
「TVで見たけれど、生きた蛸を食べさせる寿司屋を知っているか?」というような変な質問もありましたが……。
小生は生きた蛸の寿司は食べたことがないので、それは海老だろうと主張したのですが、いやこんな格好の海の動物だと説明します。やっぱり、蛸です。
帰宅してから、家族に聞くと「そういう寿司、あるんとちゃう」ということでしたが、いまだに信じられません。



Posted by ユリウス at August 15, 2008 22:51
無事、ご帰阪されたようでなによりです。
帰国便がフライトの遅れるプロ(笑)とご一緒だったので、ちょっと心配していましたが、どうも貴殿のツキの力が上まわったようですね。^^
来年も同じフライトにしたいそうです。ByM6p(笑)
Posted by サクラメント at August 15, 2008 09:17
サクラメント さま

TDは昼時間だったので、代役だったのかも?
結局、1時5分前に終局できたので、ランチはなんとか食べることができました。
ご心配をたまわり恐縮です。


STakehara さま

トラブルが生じたときの対応は、ホテルのフロントでも、大会運営のボランティアでも、もちろん、当事者も、ちょっと日本とは対応が違うように感じることがあります。
ただ、やりあった後で話ができたわけで、そこのところは良かったです。
対戦した相手と、話ができない、顔も見たくないという関係には、なりたくありませんので……。
Posted by ユリウス at August 15, 2008 08:37
ユリウス様、

アメリカには、そのような方がいっぱいいます。そういう時は、ユリウス様みたいにビシッということが肝心です。いずれにせよ、それは、彼女の問題ですから。でも、ちょっと、腹が立ちますね。
Posted by STakehara at August 14, 2008 14:30
最終日に嫌な思いをされ、申し訳ありませんでした。
TDの対応も、多いに問題ありです。
次回のコングレスの為にも、この件は伝えておきます。
さて、この女性、ちょっとした有名人です。
トラブル・メーカーとして…。
でも、彼女の言動に惑わされずに、確実に勝利されたのはご立派です。
Posted by サクラメント at August 14, 2008 09:08