May 07, 2008

日中共同声明を読み解く

 福田康夫首相と胡錦濤・中国国家主席は7日午前に会談し、両国がアジアと世界の平和と安定、発展のため「戦略的互恵関係」を推進していくとする日中共同声明を発表した。
 共同声明では、「日中関係が両国のいずれにとっても最も重要な二国間関係のひとつであり、今や日中両国がアジア太平洋地域および世界の平和、安定、発展に対し大きな影響力を有し、厳粛な責任を負っているとの認識で一致した」とし、5つの柱を掲げているが、本当に内容のある声明なのか精査したい。

(1)政治的相互信頼の増進
→ 内容は両国首脳のどちらか一方が他方の国を定期的に訪問するんだそうだ。ここまでは結構なことだが、首脳が何を語り、何を意思決定するのか、今のところ何も見えない。「戦略的な対話のメカニズムを強化する」って宣言されても、言葉が空回りしているとしか思えません。

(2)人的・物価的交流の促進・国民の友好感情の増進
→ 人的・物的交流は結構である。中国の留学生をもっともっと受け入れるようにしたらよい。ただ、中国政府が「国民の友好感情の増進」のために何をされようとかまわないが、わが国民は日本政府に友好感情の増進のための何かをして欲しいとは望んでいない。将来のために、中国に対して毅然とした態度で、云うべきことがキチンと言える関係が築けたら、国民は真の友好関係と判断し、自然に友好感情も生まれるだろう。
 今回の福田総理はそういう真の友好関係を築こうとする気迫に欠けていたのではないか。

(3)互恵協力の強化
→ エネルギー・環境分野における「重点的協力」や貿易、投資、情報通信技術、金融、食品・製品の安全、知的財産権保護、ビジネス環境、農林水産業、交通運輸・観光、水、医療などの幅広い分野での互恵協力を進め、共通利益を拡大していくとしているが、これまでの中国は「互恵協力」の姿勢が無かったのではないのか。東シナ海のガス田開発しかり、餃子問題しかり、気象情報提供しかり、黄砂の情報でさえも国家機密を盾に提供しないようなことでは、「互恵協力」の文言が泣いている。

(4)アジア太平洋への貢献
→ 中国の軍事大国化はアジア太平洋への貢献になるのか? 軍事費の拡大をつづけ、日本海にまで原子力潜水艦を遊弋させている現状は、軍事力のプレゼンスの強化による近隣諸国への影響力行使ではないのか?
 チベットの国民の人権を抑圧し、それを正当化し強弁する中国政府に対して、国際社会が如何に憂慮しているか、日中両首脳は本当に話し合ったのか? 福田総理は「国際社会の懸念」と言ったそうだが、わが国総理として懸念し、憂慮し、善処を真剣に求めるべきであろう。諸外国がオリンピックの開会式に政府高官が出席しないことで、中国政府への抗議の意思を示しているのに、福田総理は出席を検討するとしているのは如何なものか?

(5)グローバルな課題への貢献
→ 日中両国がともに21世紀の世界の平和と発展に対し「より大きな責任」を担っていることは間違いないが、今の両国政府ではグローバルな課題に一致して取り組むことは難しいと思う。餃子問題一つ、未だに解決できなくて、何が地球環境問題か。中国は「2013年以降の実効的な気候変動の国際枠組みの構築に積極的に参加する」と明記しているが、黄砂の情報すら提供しないような情報の閉鎖的な国であるかぎり、実効ある貢献は大変難しいといわざるを得ない。


別のニュースで、政府高官が日中間の懸案である東シナ海のガス田共同開発問題について、夏前に両国が最終合意に達し、内容を発表できるとの見通しを明らかにしたそうだ。「(同日行われた会談で福田康夫首相と胡錦濤中国国家主席の)両首脳の考えは一致した」と指摘した上で、「すぐに発表すれば、たちまち壊れてしまう。日中双方の国内調整が残っている」と述べたという。
 「首脳が合意した内容がたちまち壊れてしまうようなものなのに、福田総理は記者会見で「議論に大きな進展があり、解決のめどが立ったことを確認した」と説明した。胡主席も「重要な進展があり、問題解決の前景が見えてきた」と語っていたがどうももう一つ信用できない

 共同声明の全体を見て、特に新しい枠組みが出来たとか、新しい合意ができたとか、大きな目玉はないようなので、書かれている内容が肉付けされて、具体的な実行段階に至るまで国民は見守るしかない。成果はこれからと言うことだ。


 本来、福田首相が○○を主張し、胡錦濤主席が××を主張し、その中で両首脳が合意の決断をしたものが△△だという説明があってしかるべきだと思うけれど、国民に向かってさえ何も語らない首相では、望む方が間違っているのかもしれませんんね。



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