September 30, 2007

類似句、挨拶句、物まね句

 Blog友達のkompfさんが「木魚のテンポ」と題して、お経の速さについて興味あるお話を書いておられる。お経の速さは勿論、リズムセクション(木魚)が決める。木魚の連想から、コメントにエントリーの主題からちょっとハズレた夏目漱石の木魚の句を付け加えたところ、そのレスにkompfさんが類似句を書いてくださった。

叩かれて昼の蚊を吐く木魚哉     夏目漱石
叩かれて蚊を吐く昼の木魚かな    太田南畝(蜀山人)

 ずにのって、またまた、類似句をあげ、後から作られた漱石の句と良寛の句が好きとコメントした。

裏ちりつ表を散つ紅葉かな        谷木因
うらを見せおもてを見せてちるもみじ    良寛

それに対する彼女のコメント。
 私は俳句に不案内なので分からないのですが、夏目漱石や良寛和尚の例のように、古くからある句を詠みなおす(?)手法は良くあるのでしょうか?
どちらの例も、ユリウスさんと同じく、後で詠まれたもののほうが私も好きです。



 彼女の疑問は翔年の興味でもある。翔年は最近の俳句界は類似句が非常に多いという印象を持っている。五七五の17文字の制約の上に、季語を入れなければいけないという制約を課せられれば、類似句の生まれる可能性が高くなるのは誰が考えてもわかる。

 類似句という言い方にはちょっと安っぽいイメージがつきまとうが、和歌に「本歌取り」があるように、俳句には「挨拶句」という立派なジャンルがある。先人の優れた俳句に対して、後輩が「こんなのはどうですか?」とその先人の句にご挨拶するという趣向である。「挨拶句」とは、いかにも親しい仲間の間で成り立つ「座の文芸」、「言葉遊びの文芸」といわれる俳句にふさわしいジャンルだと思う。

 上の例で言えば、良寛の句は谷木因への挨拶句と見たら、良寛さんのやさしい人柄まで窺われて興趣は増す。漱石の句だって、「南畝さん、こうしたら如何?」と漱石がご挨拶している句とみれば見られないことも無い。

もう少し、挨拶句をあげよう。

葱白く洗ひたてたる寒さかな     松尾芭蕉
易水に葱(ねぶか)流るゝ寒さかな    与謝蕪村
※易水=漢詩の「風蕭々として易水寒し 壮士ひとたび去って復た還らず」をふまえていると思う。


遠山に夕日一すじ時雨かな     与謝蕪村
遠山に日の当りたる枯野かな      高浜虚子


凩の果はありけり海の音         池西言水
海に出て木枯帰るところなし       山口誓子


獺祭忌明治は遠くなりにけり      志賀芥子
降る雪や明治は遠くなりにけり     中村草田男
※獺祭忌=だっさいき、子規の忌日(9/19)。


奈良七重七堂伽藍八重桜       松尾芭蕉
山又山山桜又山桜     阿波野青畝
→ これなどは、類似句に見えないが、「漢字ばかりの句を私もつくりましたよ」という「挨拶句」ととれないこともない。


 このような凄い俳人達の類似句を見ていると、つい、こんな評価順位を考えたくなった。高級なものから順に

挨拶句>類似句>物まね句>盗作

 通常「似たような句だな」と思うのは大抵物まね句でしょうね。





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この記事へのコメント
ユリウスさま

トラックバック有難うございます。
ご紹介いただいた「挨拶句」、どれも興味深く拝見いたしました。
「挨拶句」というジャンルがあることも知らなかった私には、とても新鮮な俳句の魅力です。

俳句はとても短い文章の中に、ことばの何十倍の情景が織り込まれている、とても密度の濃い文芸だと思います。
数秒で読むことのできる文章ですが、じっくりと味わうことができる。そういう点が鑑賞の面白さのひとつでしょうか。
“せっかちな物読み”の私は、その“じっくり”がなかなか出来ないでいたのですが、挨拶句を比較鑑賞しているうち、じっくり味わう面白さに目覚めた気がします。

とても楽しい話題でした。有難うございます。
Posted by kompf at October 01, 2007 14:37
kompf さま

こちらこそ、いつも楽しませていただいています。
kompfさんが蜀山人の句をひいて下さらなかったら、このエントリーは生まれませんでした。

>じっくりと味わうことができる。そういう点が鑑賞の面白さのひとつでしょうか。
そうですね。今の季節ですと、季語の「秋の暮れ」をつかった類似句の多いこと。そういう通俗的な寂寥感に反抗して、目の前の女をメインディッシュ(失礼)にした句を作った詩人を見つけました。

女ゐてオカズのごとき秋の暮れ   加藤郁乎



Posted by ユリウス at October 01, 2007 23:39
いい記事に出会え嬉しく思います。
「挨拶句」ということ知りませんでした。
私、今江戸初期の版本を皆で読んでいますが、仲間に早速話したいと思います。そして是非仲間内にはやらせたいと思います。
先ず第一回は、「毎年よ彼岸の入に寒いのは」にしようかなと思っています。ところで質問二つ。
➀「毎年よ〜」の句は、本当に子規の句でしょうか。探しても見つかりません。出典をご存知でしたらお教えください。
◆岼Щ句」というのは誰が言い出した言葉でしょうか。連句にはそういう言葉があった様に思いますがそれとは違うわけで。
上記よろしく。
Posted by 猪野 健 at March 27, 2010 10:57
猪野 健さま

はじめまして!

(1)これは有名な子規の句ですから、どこにでもあるはずです。
不思議に思ったので、手元にあるもので調べてみました。
平井正敏編「新歳時記」(春)にも採用されていますし、江國滋著「俳句とあそぶ法」にも、ちゃんと出ていました。

(2)おっしゃるように俳句は俳諧(俳諧連歌)の発句から独立したものですね。だから俳句は全て挨拶とも言えると先人達が言っています。
誰が言い出したかと言うご質問ですが、小生は知りません。
今となっては分らないのではないでしょうか?
いろんな俳句の本に「これは挨拶句だ」と解説されているのを散見しますから、俳人にとって「誰が言い出したか?」はもう話題にもならないのではと思います。

初めての人に会ったら、挨拶する、あたらしい土地にいったら、その地名に挨拶する、花が咲いたら花に挨拶する、そういう名句がありますね。

今思い出したのですが、子規の「毎年よ…」の句は子規の母堂がつぶやかれた言葉だそうですよ。そうならこれは「つぶやき俳句」の嚆矢です。最近なら”Twitter Haiku”ですね。(笑)
(同じコメントが二つありましたので、一つ消去しました)
Posted by ユリウス at March 27, 2010 12:11
早速の返信有難うございました。
「挨拶の句」のこと了解。そういうことでしょう。
ところで子規の「毎年よ〜」のことですが、おっしゃるように「母の言葉自ずから句となりて」とある、と一般には言われていますが、本当か子規のどこにあるかということです。実際は妹の律の言葉だという説?もありますし。付言すれば、最大の弟子虚子の歳時記にはないというのも不思議ですし。
僕は誰かが作り出した壮大な?ウソだと思っているのですが。
巷間言われていることの根拠となる子規自身のものをよろしくお教えください。
Posted by 猪野 健 at March 28, 2010 06:58
猪野 健さま

まず、ハッキリ言えることから。
虚子の歳時記にないのが、不思議とのこと。小生は何の不思議も感じません。
なぜなら、「歳時記」とは編者が季語にふさわしいと思った句を例に上げている書物ですから、編者の感性の取捨選択があって当然です。
それに子規は生涯に数万句をつくっていますから、弟子が師匠の句を何でもかでも採用したら、歳時記にはなりませんね。(笑)

さて、「毎年よ…」の句が子規の句であるかどうか、お疑いの件です。
子規の句集が今手元にない(田舎の書庫に置いてます)ので、残念ですが、確かめることはできません。ただ、子規自筆稿本(子規句帖とも言われる)『寒山落木』にあるやに、誰かの本の何処かに書いてあったように、かすかに覚えていますので、小生は子規の句であることに疑いは持っていません。(記憶違いの場合はゴメンなさい)なんなら子規全集でお確かめ下さい。

最後にご母堂(八重)の言葉か、妹(律)の言葉かという問題ですが、小生はどちらであると決めつけることは無理ではないかと思います。
強いて言えば、「毎年よ彼岸の入り…」という表現から、2、3歳下の妹(子規が没した年、彼女は31歳)の言葉とするより、年老いたご母堂のつぶやきと考えた方がより自然であるし、味わい深いと小生は感じます。

「ウソ」という強い言葉を使われるのでしたら、もう少しハッキリした根拠が必要と愚考します。
Posted by ユリウス at March 28, 2010 18:25
ご意見ならびにオタシナメ有難うございました。
その後分かったことを記します。
出所は『子規句解』昭和21年創元社でした。
これは虚子が自分の見聞などを記したもので・・・、それをどう判断するかでしょう。子規の何かにあれば(例えば『寒山落木』にでも)間違いありませんが。
「壮大なウソ」云々は、確か誰かの著書に、彼が作り出した本があったことを思い出したものですから。現在、<古典遠近B級学>を書いていて、ついその流れで。あしからず。
Posted by 猪野 健 at April 03, 2010 10:27
猪野 健さま

「子規句解」にあるのですか。それなら子規の何かに必ずあると思います。
小生も今後気をつけておきます。見つけ出す自信はありませんが、もしハッキリしたことが分ったら、何らかの形でお知らせしたいですね。

「ウソ」の件、偉そうに聞こえたらゴメンナサイ。←小さくなってます。(笑)

本を書いておられるのですか? 「B級」に魅かれます。
書店で出会えるかもしれませんね。楽しみに待っています。

Posted by ユリウス at April 03, 2010 22:30
猪野 健さま

(母の詞自ら句になりて)
毎年よ彼岸の入に寒いのは   子規

この有名な句は岩波文庫の高浜虚子選「子規句集」39ページにあります。本日確認しました。

出何処は「寒山落木 巻二」(明治26年)です。
子規は自分の句は決しておろそかにせず、丹念に分類し清書して「寒山落木」と「俳句稿」に書きとめていました。
さらに、この俳句の巨人は「この俳句稿はおのれの句を尽く集め類題と為し置きて自ら閲覧のたよりとなす この集に載するもの必ずしも善しと思ふ句に非ず」と凛と書いています。
さすがと思います。

子規自らの句であることは勿論、ご母堂の口から発せられた言葉であったことも、1点の疑う余地ない事実であると考えます。

Posted by ユリウス at April 16, 2010 16:32
4/18のメール有難うございました。

残念ながら、小生いまだ下記(4/3)の段階です。
「出所は『子規句解』昭和21年創元社でした。
これは虚子が自分の見聞などを記したもので・・・、それをどう判断するかでしょう。子規の何かにあれば(例えば『寒山落木』にでも)間違いありませんが。」

お教えいただいた下記の
「出何処は「寒山落木 巻二」(明治26年)です。
子規は自分の句は決しておろそかにせず、丹念に分類し清書して「寒山落木」と「俳句稿」に書きとめていました。」ですが、見当たりません。

『寒山落木』は、筑摩書房の現代日本文学全集6『子規・左千夫・節』所収のものです。私が見たのは。

ところで、筑摩の巻一の「編註」になにやら書かれていますので、その辺に何かがあるのかもしれません。ユリウスさんがご覧になった「出何処は『寒山落木 巻二』(明治26年)」はどこにある(所収されている)『寒山落木』か、お教えください。探して見たいと思います。

Posted by 猪野 健 at April 22, 2010 14:28
猪野 健 さま

1 小生は3月28日のコメントで「子規全集」でお確かめ下さいと書いています。
お確かめになりましたか?

2 4月16日には虚子選「子規句集」で見つけたと書きましたがお確かめになりましたか?
この書では虚子が寒山落木のどこから引いたか書いています。

3 くどいようですが「子規全集」(改造社版)をまずご自身でご確認下さい。

そうでないと、たまたま、あなたがご覧になった本の中に見出せないといわれても、小生は「そうですか」としか申し上げようがありません。


それよりもなによりも、あなたの疑いの根拠、妹の律の言葉だという説の根拠をお示し下さい。
なぜなら、歴史の真実に迫ろうとするからには、両方の論拠となるデータの所在、もしくは推論の論拠が明らかにされなければ、一歩も先へ進むことはできませんから。
Posted by ユリウス at April 22, 2010 16:38
メール拝見。おっしゃる通りです。「筑摩」のだからと安心しすぎました。やはり原典に近い物に当たらないとこんなことになるんですね。
早速『子規全集』を見てみます。

ただ市の図書館を通しての検索なので、ご返答まで日にちが掛かりますが。それに改造社版はなさそうなので、講談社版になります。

それから、妹律云々は私も伝聞なのでお許しください。孫引きならぬ孫聞き?で云々して申し訳ありませんでした。
『寒山落木』巻二は、後日全集確認の上謝罪のメールをと思っております。本当にお騒がせして申し訳ありませんでした。

岩波文庫の虚子選は、そこに「毎年よ」の句があったとしてもそれは『虚子句解』と同じ伝かと思います。全集を見てもいないのに・・・後で大恥を書いた?ことになるかもしれませんが。これまたお許しください。前もって謝っておきます。
Posted by 猪野 健 at April 23, 2010 11:17
本日全集確認しました。
改造社版(昭和5年)は全集第一巻のP164に、講談社版(昭和51年)は同じ第一巻のP188にあるのをしっかり確認しました。
本当に恥じ入っております。
重ねてお詫び申し上げます。
Posted by 猪野 健 at April 29, 2010 15:47
猪野 健さま

あなたの疑問が解消したようで、何よりです。
またのお越しをお待ちしております。
Posted by ユリウス at May 03, 2010 13:28