March 15, 2007

カズオ・イシグロ −日本人のブッカー賞作家

 神戸のYさんから、カズオ・イシグロ著「私を離さないで」(Never Let Me Go)がいいと教えてもらった。彼女の選択眼は信用しているので、読んでみたいと思ったけれど、題名がちょっと甘ったるい。が、聞いてみると日本人のブッカー賞受賞作家だという。内容は「言わない方がいい」とて、教えてもらえなかったが、かつて、ブッカー賞作品「恥辱」にたいへん感銘を受けたことがあったからだろうか、読みたいという思いが募った。

 それでカズオ・イシグロの作品をネットで探し、早速、ブッカー賞受賞作の「日の名残り」(The Remains of the Day)と「私を離さないで」を買い、いそいで読んだ。題名は「日の名残り」の方がだんぜんいいので、まずこれを読み、続いて後者を読んだ。

日の名残り

 「日の名残り」は素晴らしい小説だった。伝統的な英国が記憶の中にまざまざと描かれ、やがて新しい時代の波に、古きよきものの数々が呑み込まれていく。それが品格ある執事の道を追求して生きてきたある男の回想として語られる。
 久しぶりに、小説を読む楽しさを味わった。作家の構想力と文体が読者に時間というもの、歴史というもの、人間の品格というものを十分考えさせてくれる。日本語訳はこれは翔年が言うよりも丸谷才一氏のこの評を信じてください。「土屋政雄の翻訳は見事なもの。」

わたしを離さないで

 「わたしを離さないで」はYさんが言うとおり、ストーリィは話さない方がいい。夏目漱石の後年の小説のように、回想による物語の展開が読者を引っ張ってくれる故、この力を読者のために温存しておこう。


 日本生まれのイギリス人、カズオ・イシグロ氏は翔年にとって、夏目漱石、高橋和巳、丸谷才一と同じように、全ての作品を読んでみたいと思わせる作家となりました。

 好みの問題があるけれど、小説好きの読者に対して、年配の人には「日の名残り」を、若い女性には「わたしを離さないで」をお勧めします。

※1 カズオ・イシグロ氏
1954年、長崎生まれ。5歳のとき、家族とともに渡英。1982年、長編デビュウー作「女たちの遠い夏」は王立文学協会賞を、1986年「浮世の画家」でウイットブレット賞を受賞。1989年「日の名残り」でブッカー賞を受賞。他に「充たされざる者」、「わたしたちが孤児だったころ」
詳細については、こちらをご覧ください。

※2 ブッカー賞
その年に出版された最も優れた長編小説に与えられる、イギリスで最高の権威ある文学賞。
翔年は2003年の受賞作、J・M・クッツェー著「恥辱(Disgrace)」が好きです。

蛇足ながら、おこがましいことながら:
 わが国の芥川賞はブッカー賞に相当すると思われます。今年の芥川賞受賞作品、青山七恵著「ひとり日和」と敢えて比較すれば、翔年は文芸春秋社がいうように青山七恵を「23歳の弾ける才能」とまでは思わなかったので、文学作品はどんなものがあってもいいという気持ちは十分持っているつもりですが、構想力、創造力、物語る力量において、お話にならないと思った。
 小さくまとまってよしとするのは我が国民の幣かも知れない。我が文壇にも、本格的な大きな器の「物語り作家」が出て欲しい。




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この記事へのコメント
YN 様

YNさんも神戸のおkeiさんも映画を見てられたのですね。

>「日の名残り」は3回くらい読みました。
YNさんのことだから、勿論英語で、原語でスラスラ読める方がうらやましいです。

とりあえず、小生はカズオ・イシグロの小説はすべて読んでみようと思っています。


Posted by ユリウス at March 22, 2007 11:44
ユリウス様

こんにちは。私は「私を離さないで」はまだ読んでおりませんが、「日の名残り」は3回くらい読みました。本当に名作だと思います。邦題もいいですよね。

実はこれは映画も観ました。映画もよかったですよ。2時間程度に入れ込むために、原作のゆったりした時間の流れが描ききれていないことは残念ですが、限られた時間の制約の中では、原作を最大限に忠実に再現した、よい映画化の例だと思いました。配役もよかったと思います。
Posted by YN at March 21, 2007 21:27
神戸のおkei さま

神戸は京阪電車が走っていないはずなのに「おけいはん」だ!

>本を読んだ後には映画は見ない、映画を先に見ると本を読まない
前者はおっしゃるとおり、後者は幾分ましなように思います。

これからも、時々コメントいただけたらうれしいです。


Posted by ユリウス at March 16, 2007 09:26
「日の名残り」2月に映画を見ました(NPO神戸100年映画祭)

本を読んだ後には映画は見ない、映画を先に見ると本を読まない
読みながら自分の中で膨らんだイメージ、感動が映画を見ることで壊れることが多いため・・・好きな作家「山崎豊子」さんの作品も違っものを見ているように思ってしまう、前置きが長くなりましたが

「日の名残り」映画の後で本を読んだものかどうか・・・
”小説を読む楽しさを味わった”とのブログを読んで迷っています
Posted by 神戸のおkei at March 15, 2007 23:05