January 18, 2007

語源の快楽(13) − 筈(ハズ)

 初場所は今日も熱戦が続いている。その相撲の基本技の一つに「筈押し」がある。親指と人差し指を「筈の形」に開いて、相手の腋の下等に当てがって押す技はたいていの人が知っている。わざと「筈の形」という表現を使ったが、「筈」の意味を知っている人は意外に少ないのではないか。「そんな筈はない、俺は知っている」なんておっしゃらずに、まぁ聞いてください。

 広辞苑の説明
1 弓の両端の弦をかけるところ。
→ ここは「ゆはず」といいます。ユミハズのミが落ちたんでしょうね。

2 弓に矢をつがえる時、弦からはずれないように、矢の端末につけるもの。
→ この部分が「やはず」です。これらから分かるように、「筈の形」とはV字形
のことなんですね。

3 道理
→ 「そんなハズはない」はよく使います。

4 約束、予定
→ 「彼女は来る筈だった」とは、振られた男の台詞。


 仕事の段取りが終わったときなど、「すべて手筈を整えるました」という報告は、横で聞いていても気持ちがいい。たまに「こんな筈ではなかった」なんてことも起こるが、それは「筈が合わなかった」んです。ゆはずのV字形のところへ弦をかけて強く張るわけですから、ピタッと合ってはずれないのが当たり前なのですが・・・。

 さて、「筈が合わなかった」が出たところで、この用例をあげておこう。江戸時代の『傾城禁短気』からこんなのが広辞苑に引いてありました。

「請けだされ、人の妻となってはずがあはず」
遊女が客に惚れられて、身請けをされて政治家の妻や商家の主婦の座におさまるようなことは昔はよくあった。苦界から普通の世界に戻れたわけだから、彼女にとっては夢のような幸運なのだが、堅気のきちんとした生活が窮屈で合わないというようなこともありえたのだろう。V字形でも合わんときは会わんのです。


おまけ。
弓の用語、ゆはず(弓筈)、やはず(矢筈)の連想でついでに、矢をいれて腰や背中に背負う道具の「うつぼ(靫・空穂)」について一言。これは矢が雨にぬれないように毛皮や鳥毛が張ってある細長い筒なのですが、男根の隠語ですからご用心。


塩田丸男著「人体表現読本」を参考にしました。
 


この記事へのトラックバックURL

この記事へのコメント
高野圭介 さま

確かに、生きるためには何がしのスペースはいるわけで、石の壁だって横への支えがある方が倒れにくくて強い。
人間でも、まっすぐにただ立っているだけでは不十分、足を開いて踏ん張る力がないとダメなんでしょう?


Posted by ユリウス at January 21, 2007 21:38
 ユリウスさま

 碁の攻めは上からには強いが、横からに弱い。つまり、はず押しに弱いことが相撲とよく似ている、と言われている。
 ここにいう相撲のはず押しとは、 押すときに、親指と他の四本指を開いて、相手のわきの下脇腹などに当てること。その手の形が「矢筈(やはず)」(矢の端の弓の弦を受ける部分のこと)に似ているところからきている。
 したがって、碁の格言に「ヒラキは二間、一家をなす」とあるのは、ハズから攻められない態勢を作れという意味でしょう。
 
 高野圭介
Posted by 高野圭介 at January 21, 2007 17:31