December 08, 2006

続・すべての道はローマに通ず

 塩野七生著「ローマ人の物語27,28」の後半部分、ソフトのインフラについて。インフラといえば、我が国では、どこの自治体でも道路や箱物ばかり作ってしまって、最近は首が回らなくなっている所がおおい。ところが、ローマ人は1医療 2教育 3法律 4郵便制度 5地図(ロード地図)などのソフト面も抜かりなかった。「ソフトがなければ只の箱」というのは、何もパソコンだけの話ではないことが、古代ローマ人は分かっていたのですね。驚嘆に値します。

古代ローマの地図(ロードマップ) 
古代ローマの地図

拡大してじっくりご覧ください。
現代の我々の使っている観光案内地図みたいですね。ただし、全長6.75mの長い巻物になっているところが違います。
また、マグカップの周囲に案内地図が書いてあるのも現存しているそうで、これも現代とおなじです。

 さて、医療と教育を革命的に変革したのがユリウス・カエサルであった。彼は何をしたか? 医師と教師にローマ市民権を与えると決めたのです。条件はシンプル、首都ローマで、医師は医療に、教師は教育に従事することである。人種も肌の色も、出身地も社会的地位も、いっさい問われない。もちろん、信ずる宗教の違いも不問。
 
 ローマ市民権の取得には、社会上でも経済面でも利点があった。一つはローマ法によって私有財産をはじめとして諸権利がシッカリ守られること、二つには、ローマ市民権を持つと、属州出身者は収入の10%にあたる属州税を免除されたことである。これによって、多くの優秀な医師や教師がローマを目指すようになったという。言い方をかえると、医療と教育は国家がコントロールしないで、「私」が活躍できる基盤をつくったということ。
 
 法的にも、税制上でも、他の面でも優遇したが、その反面、医師や教師を自由市場に放り出したのです。これが大成功を収めたので、カエサルの死後も、代々の皇帝たちに受け継がれていった。もし、我が国に突然こんな制度ができたら、国や地方の公務員としての身分に守られ、公的機関で一生教えられる環境にあぐらをかいている無能教師は、あっと言うまに淘汰されるのではないだろうか。ともかくも、古代ローマではこの方式で医療と教育水準は向上し、衛生環境もよくて(なんせ、よい水が十分供給され、国民は風呂好き)、普通の庶民でも安全に旅行もできたので、社会はいきいきと活性化したのだった。そして、キリスト教の支配がはじまるまで、ローマのこの制度は続いたのですね。

 この後、恐ろしいキリスト教がローマ中に蔓延し、宗教的価値観で医療や教育を管理し始めるのではないのかな? 自由とか価値観の多様性は無くなっていったと思えます。次の文庫本の発刊が待ち望まれます。


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