November 23, 2005

論理にフェアネスを!

 「文芸春秋」12月号にノンフィクション作家の関岡英之氏が「警告レポート」として『奪われる日本』を書いている。文芸春秋が保守的傾向が強いことは承知しているが、このレポートは読むに堪えない部分が多くあった。それは何かというと、我国はアメリカの戦略に侵されて、何から何までアメリカの言いなりになり、我国の善良な庶民の暮らしがアメリカのために脅かされていると警告しているのですが、都合のよいデータと論理を交えながら、要するに日本人のナショナリズムを煽っているからです。

文芸春秋12月号
文芸春秋12月号


 翔年は右翼であろうと左翼であろうと意見には耳を傾けます。ただし、相手にフェアな論理展開と良心を求めます。それを欠いた議論は不毛になると思うからです。

 保守層とはいえ、我国のリーダー層が読んでいる雑誌にこのような歪んだ見方の論文が掲載されるとは残念でなりません。今後、このレポートに沿った論調がメディアやネット上に現れるかも知れないので、前もって釘をさしておきたいと思います。

 「警告レポート」にこんな表現があります。
1「簡保120兆円を米国の保険業界が狙っている。」
2「米国にとって民営化はゴールでなく、簡保を弱体化させ、分割、解体、経営破綻に追い込み、M&Aや営業譲渡などさまざまな手段を弄して、簡保が擁している120兆円にのぼる資産を米国系民間保険会社に吸収させることが最終的狙いなのである。」

 これって、半分は正しいけれど半分は間違っています。簡易保険を廃止して民間保険会社にするということになれば、日本の保険会社も、アメリカの保険会社も、その他の国の保険会社も120兆円市場を狙うのは、経済合理性の行動であり、ごくあたり前のことでしかありません。関岡氏はアメリカの保険業界だけが狙っているのでないことを百も知りながら、上のように書くのです。
 開放を強く要求するアメリカですが、民営化して公平な競争ができるようにと要求しているわけで、自国の保険業界だけ有利にせよなどとは一度も言っていません。(云うはずもありません)フェアネスは彼らの間では常識です。もし、我国の保険業界がことごとく外国の資本に破れるとしたら、それは日本保険業界の知恵不足の結果です。関岡レポートは著しくアンフェアな見解だと思います。

 このような論理による主張は国際社会では通用しません。財界や政界のリーダーにこの手の論客がいますが、彼らは決して国際的なリーダーにはなれないでしょう。フェアネスはリーダーの大きな条件です。これを欠いた人物は相手にされませんから。



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