以前、ローレンス・スターン著「トリストラム・シャンディ」という難しいけれども、抱腹絶倒の小説のことを少し書きました。(2004/9/26)
子供は生まれる時に「平均して常衡470ポンドの重みが垂直にその頭に作用する」から、「50中49例までは、胎児の頭はちょうど菓子屋の職人がパイを作るのに普通メリケン粉を練ってかたまりをこね回す時のように、おしひしがれて、楕円円錐状のグニャグニャした形にされてしまう」。だから、どこの家庭でも長男が一番阿呆であることもこれで見事に説明がつきました」と言うようなことが長々と5ページに亘って書いてあるような、何とも変った小説です。
ところが最近こんな写真つきの文章に出会ってビックリしました。ブチハイエナ君のことです。この不思議を読者にもおすそ分けします。
ブチハイエナのオスとメス
「ブチハイエナのメスは、母親の胎内にいる時期に極度に大量の男性ホルモンを分泌するため、オスのものとほとんど区別がつかない外性器をもって生まれてくる。」
つまり、早く言えばブチハイエナのメスにはペニスがあるのです。
読者の興味を引いた所で、もう少し引用しましょう。
「オスのペニスと大きさもほぼ同じで、完全な大きさの亀頭が見られる先端には尿道口がある。大陰唇が癒合しているために陰嚢もあるが、その中に睾丸はない。」
あたり前のことですが、メスのペニスは交尾中は勃起しません。
さて、ここでトリストラム・シャンディと話は繋がるのです。
写真の下の絵をよくご覧下さい。ご想像のとおり、分娩時には尿道に莫大な負担がかかるので、初産は実に大変です。
「ブチハイエナの産道が、他の動物に比べて長さが二倍あるだけでなく、非常に急角度のカーブを描いていることがわかるだろう。胎盤からリラキシンという特殊なホルモンが分泌され、結合組織(靭帯)を伸びやすくする。」
とにかく、胎児がその中を通れるくらいまで尿道が広がらなければいけないのだから、リラキシンも必死です。ブチハイエナに「案ずるより生むが安し」という格言はありません。それを数字で示しましょう。
「第一子の半数近くは死産、もしくは出産後まもなく死亡する。ほとんどの子が正常に生まれるようになるのは二度目の妊娠からだ」
痛ましいことだ。翔年は神に怒りをぶつけて糾したい。「エデンの園で最初のブチハイエナのメスは、リンゴよりももっと厳しく禁じられている木の実を取って、オスを誘惑したのですか? それにしても酷すぎます」と。
(参考図書)イェルト・ドレンド著 塩崎香織訳 「○○○○の文化史」